「ベンチプレスで肩が痛い」——THE FITNESSに来るクライアントの中でも特に多い相談の一つです。痛みを我慢しながらトレーニングを続けた結果、腱板損傷が慢性化してしまうケースも少なくありません。この記事ではベンチプレスのフォームに起因する肩の痛みの5つの原因パターンと、ローテーターカフを強化する改善ドリル、そして段階的な復帰プログラムを解説します。

なお、ベンチプレスの正しいフォームや大胸筋への効かせ方の基本は別記事で詳しく解説しています。

ベンチプレスの正しいフォームと効かせ方

5 PAIN PATTERNSベンチプレスで肩が痛くなる5つのパターン

Noteboom et al.(2024)はベンチプレスの21種類のテクニックバリエーションについて肩関節荷重をOpenSimモデルで解析し、グリップ幅・肩外転角度・肩甲骨ポジションが肩関節への力学的負荷を有意に変化させることを報告しています(PMID:38974522)。以下の5パターンは、この研究知見と18年の指導経験を統合した分類です。

1
肩甲骨の固定が不十分(インピンジメントの最大原因)
肩甲骨を内転+下制(寄せて下げる)できていない状態でプレスすると、上腕骨頭が肩峰の下にある腱板を圧迫し、肩峰下インピンジメントを引き起こします。肩甲骨のセッティングが不十分なまま重量を増やすことが、肩の痛みの最も多い原因です。
2
グリップ幅が広すぎる
Noteboom et al.の研究では、グリップ幅が肩幅の2倍になると肩鎖関節の圧縮力が有意に増加し、鎖骨遠位端の骨溶解リスクが高まることが示されています。肩幅の1.5倍以下にすることで肩鎖関節への負荷が軽減されます。
3
バーを顔・首側に下ろしている
バーの着地点が高すぎる(鎖骨〜首方向)と、肩関節が過度に外転・外旋した状態で荷重がかかり、腱板への圧力が最大化します。バーは乳首ライン(みぞおちと鎖骨の中間)に下ろすのが安全です。
4
肘を体から90°に開いている(Tポジション問題)
肘を真横に開く(体幹との角度が90°)と、肩外転角度が最大になりローテーターカフへの負荷が急増します。同研究でも、肩外転角度45°が肩関節荷重を最小化することが確認されています。肘の角度は45〜75°の範囲に収めてください。
5
巻き肩・肩甲骨前傾がある(構造的な問題)
日常的にデスクワークが長い方は胸椎の後弯と肩甲骨の前傾(巻き肩)が固定化しやすく、ベンチプレスのセッティングで肩甲骨を正しい位置に保持できません。フォームの問題ではなく可動域の問題であるため、ベンチプレスの前に胸椎と肩甲骨のモビリティ改善が先決です。

PAIN DIAGNOSIS痛みのパターン別・原因と優先すべき修正ポイント

「押す瞬間に鋭い痛み」→ 肩甲骨固定+肘角度の修正

バーを押し上げる際に肩の前面〜側面に鋭い痛みが走る場合、肩甲骨の固定が甘い状態でプレスしているパターンが最も疑われます。プレス中に肩甲骨が浮いて前方に出ると、上腕骨頭が肩峰を衝突し、棘上筋腱を圧迫します。肩甲骨を寄せて下げたセッティングを完成させてからラックアウトすること、肘の角度を45〜75°に保つことが最優先の修正ポイントです。

「最下点で詰まる感じ」→ グリップ幅+バー軌道の修正

バーを胸に下ろしきったボトムポジションで肩の奥が詰まる・引っかかる感覚がある場合、グリップ幅が広すぎるか、バーの着地点が高すぎる(首寄り)可能性が高いです。グリップ幅を拳1つ分狭め、バーの着地点を乳首ライン方向にずらすことで改善するケースが多いです。

「重量を上げると悪化」→ 巻き肩の改善が先決

軽い重量では問題ないのに、重量を上げると肩が痛くなる場合は、巻き肩(胸椎後弯+肩甲骨前傾)が根本原因であることが多いです。軽い重量ではフォームで代償できていたものが、高重量で代償できなくなるパターンです。この場合はベンチプレスの重量を追わず、ローテーターカフドリルと胸椎モビリティの改善を2〜3週間優先してください。

整形外科を受診すべきサイン
・安静時にも肩が痛む / 夜間痛がある
・2週間以上改善しない
・腕に痺れや放散痛がある
・肩の可動域が明らかに低下している
これらの症状がある場合は腱板断裂・関節唇損傷の可能性があります。フォーム修正の前に医師の診断を受けてください。

ROTATOR CUFF DRILLSローテーターカフを強化する4つの改善ドリル

ローテーターカフ(回旋筋腱板)は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋肉で構成され、上腕骨頭を肩関節窩に安定させる役割を担っています。Mausehund & Krosshaug(2023)の研究では、熟練リフターは初心者に比べて肩関節の動的安定性が高く、フォームの質が肩荷重に直結することが確認されています(PMID:35157403)。以下のドリルを週2〜3回、各10〜15回×2〜3セット行ってください。

D1
バンド・エクスターナルローテーション(棘下筋・小円筋)
軽いレジスタンスバンドを使い、肘を体側に固定した状態で前腕を外側に回旋させます。上腕を体から離さないことがポイントです。肩の外旋力を高めることで、ベンチプレス中の上腕骨頭の前方滑りを抑制します。テンポは2秒で開き、2秒で戻すコントロール重視で行ってください。
D2
フェイスプル(肩甲骨リトラクション習得に最適)
ケーブルまたはバンドを顔の高さにセットし、両手で引きながら肩甲骨を寄せる(リトラクション)動作を意識します。フェイスプルはベンチプレスの肩甲骨セッティングの練習にも直結する種目で、後部三角筋と菱形筋を同時に鍛えられます。
D3
YTWエクササイズ(肩甲骨周辺の総合強化)
うつ伏せまたはインクラインベンチに伏せた状態で、腕をY字→T字→W字に動かします。僧帽筋下部・菱形筋・棘下筋を総合的に強化し、肩甲骨の安定性を高めます。自体重で十分な負荷が得られるため、ウォームアップにも最適です。
D4
スキャプラープッシュアップ(前鋸筋・動的安定性)
腕立て伏せのトップポジションから、肘を曲げずに肩甲骨だけを寄せる→開く動作を繰り返します。前鋸筋を活性化させることで、ベンチプレス中の肩甲骨の動的安定性が向上します。巻き肩の改善にも有効なドリルです。
肩甲骨と股関節の可動域を広げるトレーニング 肩の可動域を改善するモビリティドリル

ALTERNATIVES肩が痛い時期に使える代替種目

フロアプレス——可動域制限で肩負担を最小化

床に仰向けで行うフロアプレスは、肘が床に着く位置が可動域の下限となるため、肩関節の過度な伸展を物理的に防ぎます。肩の痛みが出るボトムポジションを回避しながら、大胸筋と三頭筋を鍛えられる最も安全な代替種目です。

インクラインダンベルプレス——肩関節角度が自然

30〜45°のインクラインでダンベルを使うと、バーベルと異なり手首と肩の角度を自由に調整できます。肩に痛みが出ない角度を探しながらプレスできるため、痛みの原因特定にも役立ちます。

プッシュアップ——自重で負荷調整が容易

プッシュアップは肩甲骨が自由に動くため、ベンチプレスのように肩甲骨が固定されたストレスがかかりにくい種目です。膝つきから始めれば負荷を段階的にコントロールできます。

💡 注意点:ケーブルフライやダンベルフライは、肩の状態によっては大胸筋のストレッチポジションで肩関節に負担がかかることがあります。痛みがある時期は避け、復帰プログラムの後半で導入を検討してください。

RETURN PROGRAM段階的な復帰プログラム(4週間)

第1〜2週:ドリル専念期
ベンチプレスは完全に休止し、ローテーターカフドリル4種を週3回実施。胸のトレーニングはフロアプレスとプッシュアップで代替。痛みのない範囲でのみ実施し、違和感があれば即中止するルールを厳守してください。
第3週:軽重量でのベンチプレス再開
ドリル2週間で痛みが消えていれば、以前の重量の50%以下からベンチプレスを再開します。8〜10レップ×2セット、フォームのチェックポイント(肩甲骨固定・肘角度・バー軌道)を1レップごとに確認。少しでも痛みが出たら第1〜2週に戻ってください。
第4週:段階的な重量増加
第3週で痛みが出なければ、前回の重量から5〜10%ずつ増加。セット数は3セットまで増やし、レップ数は8〜12回の範囲で管理。ベンチプレスの前にローテーターカフドリルをウォームアップとして必ず実施する習慣を定着させてください。
再発防止チェックリスト
・肩甲骨を寄せて下げたセッティングをラックアウト前に完成させているか?
・肘の角度は45〜75°に収まっているか?
・バーの着地点は乳首ラインか?
この3点を毎セット確認してください。無理に重量を追うと腱板損傷が慢性化するリスクがあります。
胸・肩周りのフォームローラーを使った筋膜リリース 50代男性のための正しいウエイトトレーニング

肩の痛みの原因特定と
フォーム修正のご相談

THE FITNESSでは18年の指導経験をもとに、ベンチプレスで肩が痛い原因の特定・フォーム修正・ローテーターカフドリルの個別指導・段階的復帰プログラムを提供しています。調布市・国領駅徒歩8分・オンライン対応。

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よくある質問

肩が痛い状態でベンチプレスを続けても大丈夫ですか?
痛みの種類によります。動作中のみ軽い違和感がある程度なら重量を下げてフォーム修正で改善できますが、安静時にも痛む・2週間以上続く・腕に痺れがある場合は整形外科を受診してください。痛みを我慢して続けると腱板損傷が慢性化するリスクがあります。
ローテーターカフのドリルはいつやるのが効果的ですか?
ベンチプレスの前にウォームアップとして軽い負荷で行うのが最も効果的です。肩の活性化を兼ねることでトレーニング中のインピンジメントリスクが低下します。週2〜3回、各10〜15回×2〜3セットが推奨です。
ベンチプレスを完全にやめた方がいい場合はどんな時ですか?
安静時にも肩が痛む、夜間痛がある、腕を上げると鋭い痛みが走る、2週間以上改善しない——これらの症状がある場合はベンチプレスを一旦中止し、整形外科を受診してください。腱板断裂や関節唇損傷の可能性があります。
フォームを直したのに痛みが続くのはなぜですか?
巻き肩や胸椎の可動域不足など構造的な問題、または既存の腱板損傷が原因の可能性があります。ローテーターカフドリルと胸椎モビリティの改善を2〜3週間試し、それでも変化がなければ画像診断(MRI等)が必要です。

まとめ

ベンチプレスで肩が痛くなる原因はフォームの問題パターンに起因するケースがほとんどです。原因を特定し、正しい修正を行えば多くの場合は改善できます

  • 肩甲骨の固定不足がインピンジメントの最大原因——ラックアウト前にセッティングを完成させる
  • グリップ幅は肩幅の1.5倍以下、肘角度は45〜75°に収める
  • バーの着地点は乳首ライン、J字カーブの軌道で押し上げる
  • ローテーターカフドリル4種を週2〜3回で肩の動的安定性を強化する
  • 痛みがある時期はフロアプレス・インクラインDB・プッシュアップで代替
  • 4週間の段階的復帰プログラムで安全にベンチプレスに戻る
  • 安静時痛・夜間痛・2週間以上の持続は整形外科を受診

肩の痛みの原因特定とフォーム修正の個別相談は、パーソナルトレーナーへどうぞ。

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参考文献

  1. 1Noteboom L, Belli I, Hoozemans MJM, Seth A, Veeger HEJ, Van Der Helm FCT. “Effects of bench press technique variations on musculoskeletal shoulder loads and potential injury risk.” Front Physiol. 2024 Jun 21;15:1393235. アムステルダム自由大学/デルフト工科大学。ベンチプレスの21テクニックバリエーション(グリップ幅・肩外転角度・肩甲骨ポジション)について肩関節荷重をOpenSimモデルで解析。グリップ幅1.5倍以下+肩外転45°+肩甲骨リトラクションが肩荷重を最小化。PMID:38974522
  2. 2Mausehund L, Krosshaug T. “Understanding Bench Press Biomechanics—Training Expertise and Sex Affect Lifting Technique and Net Joint Moments.” J Strength Cond Res. 2023 Jan;37(1):9-17. ノルウェースポーツ科学大学。パワーリフターと一般トレーニーのベンチプレスバイオメカニクスを比較。熟練度がバーパス・関節キネマティクス・筋活動パターンに与える影響を分析。PMID:35157403
  3. 3Motlagh JG, Lipps DB. “The Contribution of Muscular Fatigue and Shoulder Biomechanics to Shoulder Injury Incidence During the Bench Press Exercise: A Narrative Review.” J Strength Cond Res. 2024 Dec;38(12):2147-2163. ベンチプレスにおける筋疲労と肩バイオメカニクスが肩傷害発生に与える影響をナラティブレビューで体系化。腱板損傷メカニズムと予防策の根拠として参照。PMID:39808810