目次
女性の生理周期と筋トレの関係
生理が来ない・早まる原因と
現在の研究が示すエビデンスを解説
- エビデンス不十分:包括的レビューは「周期フェーズが筋力に影響する」エビデンスは現時点で不十分と結論
- 仮説レベル:卵胞期に強度を上げ黄体期に下げる調整は「試す価値のある仮説」であり必須推奨ではない
- 逆の問題あり:過度な運動量・エネルギー不足が続くと生理が来なくなることがあり(運動性無月経)、医学的注意が必要
- 基本が最優先:継続・栄養・睡眠・回復の方が、周期フェーズ管理よりも効果に影響する可能性が高い
タンパク質摂取目安
強度・ボリュームの目安
高まる目安ライン
SEC01 BACKGROUND「生理周期に合わせてトレーニングを変えるべき」という考えはどこから来たのか
SNSやフィットネス界隈で広まっている「ホルモン周期トレーニング」の概要
ここ数年でフィットネス界隈やSNSで急速に広まったのが「ホルモン周期トレーニング(サイクリック・トレーニング)」という考え方です。大まかには「卵胞期(月経開始〜排卵前)はエストロゲンが高く力が出やすいので強度を上げ、黄体期(排卵後〜月経前)はプロゲステロンが高く疲労しやすいので強度を下げる」というものです。一見理にかなっているように見えますが、科学的根拠の強さについては注意が必要です。
この考え方が注目された背景
この考え方が注目されるようになった背景の一つに、長年にわたって女性が運動科学研究から除外されてきたという現実があります。ホルモン周期による研究への影響を理由に、女性は多くの運動生理学実験の対象から外されてきました。その反動として「女性特有の生理学を考慮したトレーニング」への関心が高まることは自然な流れでもあります。ただし、「女性への配慮」と「科学的根拠のある推奨」は別物であり、両者を混同しないことが重要です。
40代女性が体型の変化に気づいたとき読む記事|プレ更年期のホルモン・体型・筋トレ入門ガイドSEC02 RESEARCH STATUS生理周期とトレーニング効果に関する研究の現状
2023年の包括的レビューが示した結論
Colenso-Semple et al.(Front Sports Act Living, 2023)は、生理周期フェーズとレジスタンス運動のパフォーマンス・適応への影響を調べた複数のメタ分析・システマティックレビューを対象としたアンブレラレビュー(包括的レビュー)を実施しました(PMID:37033884)。その結論として、「現時点のエビデンスは、生理周期フェーズが急性の筋力パフォーマンスやレジスタンストレーニングへの適応に影響を与えることを支持していない」と述べています。
マクマスター大学(カナダ)ほか。メタ分析・システマティックレビューを対象としたアンブレラレビュー。生理周期フェーズが急性の筋力パフォーマンスおよびレジスタンストレーニングへの慢性的な適応に影響するという証拠は、現時点では不十分であると結論。よく引用される周期別トレーニング支持研究の方法論的限界(ホルモン確認の不足・小規模サンプル・研究デザインの不均質性)を包括的に検討した重要文献。PMID:37033884
卵胞期に筋力が高くなる可能性を示した研究
一方でKissow et al.(Sports Med, 2022)は、卵胞期に集中的なトレーニングを行ったグループが黄体期中心のグループより筋力・筋肉量の改善において優位な傾向を示したことを報告しています(PMID:35471634)。コペンハーゲン大学の研究チームによるもので、卵胞期(エストロゲン高値)でのトレーニングが優位である可能性を示した研究として引用されることが多いです。
2つの結論が一致しない理由
研究間で結論が異なる主な理由として以下が挙げられています。①個人差の大きさ:McNulty et al.(Sports Med, 2020)のメタ分析では、生理周期フェーズによる運動パフォーマンスへの影響が認められる場合でもそのエフェクトサイズは小さく、個人差が極めて大きいことが示されています(PMID:32661839)。②フェーズ確認方法の違い:多くの研究が自己申告による周期の記録のみを使用しており、ホルモン値の実測による検証が不十分です。③測定する筋力の種類の違い:Romero-Moraleda et al.(J Hum Kinet, 2019)は動的な筋力・パワーが3フェーズ間で有意差がなかったことを報告しています(PMID:31531138)。
SEC03 CYCLE PHASES生理周期の各フェーズで起きていること
各フェーズのホルモン変化とトレーニングへの影響
エストロゲン・プロゲステロンともに低値。子宮内膜が剥離・排出される時期。痛みや倦怠感が強い方は多いが、ホルモン的には制約は小さい。
エストロゲンが緩やかに上昇し、排卵直前にピークに達する。体調が整いやすい時期とされ、一部の研究で筋力・パワーが高い傾向が報告されている。エストロゲンにはタンパク質同化作用があるとされる。
黄体形成ホルモン(LH)のサージによって排卵が起きる。エストロゲンが一時的に低下したのち黄体期に移行する。関節弛緩性が高まるという報告があり、靱帯への過負荷に注意が必要とされることがある。
排卵後に黄体から分泌されるプロゲステロンが上昇する。基礎体温がやや上昇し、水分貯留・体重増加・むくみ・食欲増加・情緒の変化が起きやすい。PMS(月経前症候群)の症状が出る方も多い。
SEC04 EVIDENCE LIMITS現時点でわかっていること・わかっていないこと
「周期に合わせた調整は推奨だが必須ではない」という立場
現時点のエビデンスから言えることは「周期に合わせたきめ細かい調整は有益である可能性があるが、一般的な必須推奨を出せるほど根拠が十分ではない」ということです。個人差が非常に大きいため、ある人に有効なアプローチが別の人には当てはまらないことが多くあります。
継続・強度・回復がパフォーマンスに与える影響の方が大きい理由
複数の研究者が強調しているのは、「生理周期フェーズの違いよりも、トレーニングの継続性・十分な強度・適切な回復の方が筋力・筋肉量の変化に大きく寄与する」という点です。体調が悪い日に軽めにすることは合理的な判断ですが、「黄体期だからトレーニングをやめる」という選択は、継続性というより大きな要素を損なう可能性があります。
① 生理周期フェーズによって筋力・トレーニング適応が変わるかどうかは、研究間で結論が一致しておらず個人差が大きい。
② 卵胞期に高強度・黄体期に低強度という調整は「試す価値のある仮説」だが「科学的に確立された推奨」ではない。
③ 継続性・栄養・睡眠・回復という基本要素の方が、周期フェーズ管理より大きくトレーニング効果に影響する可能性が高い。
SEC05 PRACTICAL APPROACH実践的な考え方
体調記録をつけることで自分のパターンを把握する
科学的な一般化は難しくても、自分自身のパターンを知ることは十分に意味があります。「卵胞期の○週目は体が軽く感じる」「月経前の3〜4日は疲れやすい」といった個人のパターンを把握することで、トレーニング計画を現実に即したものにできます。
| 記録項目 | 記録のポイント | 活用方法 |
|---|---|---|
| 周期日数 | 月経開始日を1日目として毎日記録 | 自分の周期の長さを把握する |
| 体調・エネルギー | 5段階で「今日の体の調子」を記録 | 体調が良い日・悪い日のパターンを発見 |
| トレーニング強度 | 実施したセット・重量・主観的強度(RPE) | 周期と強度の相関を数週後に確認 |
| 睡眠 | 睡眠時間・睡眠の質(5段階) | 黄体期の睡眠変化を把握する |
| 体重 | 毎朝起床後・空腹時に測定 | 黄体期の水分変動を体脂肪増加と混同しない |
【デメリット】 光学式心拍計は激しい動作や肌の状態によって測定精度が下がる場合があります。医療的な計測には使用できません。傾向把握のための補助ツールとしてご活用ください。
黄体期・月経期に感じる不調への対処
栄養・睡眠・水分補給の基本を整えることの優先度
周期フェーズ管理よりも先に整えるべき基本として、①タンパク質の確保(体重×1.2〜1.6g/日)・②鉄分の補完(月経による鉄損失)・③睡眠の質・④水分補給があります。特に月経中の鉄分不足は疲労感・パフォーマンス低下に直結するため、赤身肉・レバー・小松菜・納豆などを意識的に摂ることが重要です。黄体期の甘いものへの欲求増加には、食物繊維と良質なタンパク質を食事に組み込むことで対処できます。
40代女性のタンパク質摂取ガイド|更年期・サルコペニア予防のための量・食材・タイミング 40代女性のボディメイクガイド 体脂肪が増えやすい5つの生活習慣生理周期・体調の変化を考慮した個別プログラムをご提案
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「トレーニングをすると生理が来なくなる」は本当か
ここまでは「生理周期がトレーニングに与える影響」について解説してきましたが、逆に「トレーニングが生理周期に影響を与える」ケースも存在します。運動量が急激に増えたり、消費カロリーに見合うだけの食事量を摂れていない状態(利用可能エネルギー不足)が続いたりすると、脳の視床下部が卵巣への指令を抑制し、生理が来なくなる・周期が乱れるといった変化が起きることがあります。これは「運動性無月経」と呼ばれ、月経周期による体調変化とは別の問題として扱う必要があります。
女性アスリートの三主徴と体脂肪率の目安
医学的には「利用可能エネルギー不足・無月経・骨密度低下」が連動して起きる状態が「女性アスリートの三主徴」として知られています。体脂肪率がおおむね5〜12%程度まで低下すると無月経のリスクが高まるとされ、極端な減量やハードなトレーニングを長期間続けている方は注意が必要です。
高まる体脂肪率ライン
婦人科への相談を検討
望ましい体脂肪率の目安
生理が「早まる」「遅れる」程度の変化との違い
無月経のような重い状態でなくても、トレーニング量の増加やストレス・体重変化によって、黄体期がやや短くなる、周期が数日前後するといった軽度の変化が起きることもあります。数日程度のズレであれば体の適応の範囲内であることが多いですが、3ヶ月以上生理が来ない状態(続発性無月経)が続く場合は、単なる体調変化として様子を見ず、婦人科への相談を検討してください。
婦人科への相談の目安
3ヶ月以上生理が来ない:続発性無月経の可能性があります。自己判断で様子を見ず婦人科を受診してください。
周期の乱れ+強い倦怠感・めまい:エネルギー不足が深刻化している可能性があります。運動量と食事量の見直しが必要です。
急激な体重・体脂肪率の低下:利用可能エネルギー不足のサインです。ダイエットと筋トレを同時進行している方は特に注意してください。
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ロサンゼルス15年+日本3年・計18年指導経験 ・ NABBA 2025 GPF優勝 ・ LA Championship 2位
まとめ周期フェーズより「今日の体調」を軸に継続することが近道
逆の問題——運動性無月経:過度な運動量やエネルギー不足が続くと生理が来なくなることがある。3ヶ月以上生理が来ない場合は婦人科への相談を。
今日からできること:1周期分だけでも体調・睡眠・トレーニング強度を記録する。体調が悪い日は強度を10〜20%落として継続する。月経中の鉄分補完と黄体期の水分変動を把握する。
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参考文献・科学的根拠
- 1Colenso-Semple LM, D’Souza AC, Elliott-Sale KJ, Phillips SM. “Current evidence shows no influence of women’s menstrual cycle phase on acute strength performance or adaptations to resistance exercise training.” Front Sports Act Living. 2023;5:1054542. マクマスター大学ほか。生理周期フェーズとレジスタンス運動の効果を評価したアンブレラレビュー。現時点のエビデンスは支持不十分と結論。 PMID:37033884 →
- 2Kissow J, et al. “Effects of follicular and luteal phase-based menstrual cycle resistance training on muscle strength and mass.” Sports Med. 2022;52(12):2813-2819. コペンハーゲン大学。卵胞期集中トレーニングが筋力・筋肉量改善において優位な傾向を示した。ただし一般化には追加研究が必要。 PMID:35471634 →
- 3McNulty KL, et al. “The effects of menstrual cycle phase on exercise performance in eumenorrheic women: a systematic review and meta-analysis.” Sports Med. 2020;50(10):1813-1827. 生理周期フェーズによる影響はエフェクトサイズが小さく個人差が極めて大きいことを示したメタ分析。 PMID:32661839 →
- 4Romero-Moraleda B, et al. “The influence of the menstrual cycle on muscle strength and power performance.” J Hum Kinet. 2019;68:123-133. 動的な筋力・パワーが3フェーズ間で有意差なしを示した測定研究。 PMID:31531138 →
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