目次
懸垂とラットプルダウンの違い
何キロできれば懸垂できる?目的・レベル別の選び方
「懸垂とラットプルダウン、どっちをやればいいか迷っている」「ジムにラットプルダウンマシンがあるが懸垂と何が違うのか」——どちらも広背筋を鍛える主要種目ですが、効き方・難易度・向いている場面が異なります。この記事を読めば自分に合う方を選べるようになります。
Q. 懸垂とラットプルダウン、どっちをやればいいのか。ラットプルダウン何キロで懸垂ができるのか。
A. 広背筋を鍛えるだけなら、どちらでも構いません。Doma ら(Sports Biomech, 2013)が両種目を筋電図と動作解析で比較した研究では、広背筋の活動量に有意差は出ていません。差が出たのは上腕二頭筋・脊柱起立筋と、肩と首の動く範囲で、いずれも懸垂のほうが大きく、論文は「懸垂のほうがより機能的な種目と思われる」と結論しています。ただし「ラットプルダウン◯kg=懸垂◯回」という変換式は存在しません。座って足を固定する種目と、全身をぶら下げる種目では動作そのものが違うためです。使えるのは体重比の目安で、ラットプルダウンで体重の60〜70%を15回余裕を持ってこなせるようになったら、アシスト懸垂で実際に試す段階です。
MUSCLE懸垂とラットプルダウンで鍛えられる筋肉はどう違うか
Doma, Deakin & Ness(Sports Biomech, 2013)は、懸垂とラットプルダウンを筋電図と3次元の動作解析で比較しました。挙げる局面で懸垂のほうが高かったのは上腕二頭筋と脊柱起立筋、そして肩と第7頸椎の動く範囲です。下ろす局面では逆に腹直筋はラットプルダウンのほうが高いという結果でした。そして広背筋そのものには、両種目間で有意な差が出ていません。同論文は「懸垂のほうがより機能的な種目と思われる」と結論しています(PMID:23833846)。なお Hewit ら(2018)は腹直筋が懸垂で高いと報告しており、体幹に関する結果は局面や測定条件で分かれます。
| 比較項目 | 懸垂(チンニング) | ラットプルダウン |
|---|---|---|
| 広背筋の活動 | 差は出ていない | 差は出ていない |
| 体幹の関与 | 脊柱起立筋が高い | 下ろす局面で腹直筋が高い |
| 肩甲骨周囲筋の動員 | 高い | 中程度 |
| 難易度 | 高い(自体重全て) | 低〜中(重量設定で調整可) |
| 重量の漸進性 | 体重依存(自重→加重) | 自由(5kg単位で調整) |
| 器具・設備 | バー1本でOK | ジムのマシンが必要 |
| 主な動員部位 | 広背筋・大円筋・上腕二頭筋・体幹・前腕 | 広背筋・大円筋・上腕二頭筋(後部三角筋) |
また、Signorile, Zink & Szwed(J Strength Cond Res, 2002)は、ラットプルダウンではワイドグリップ前引き(WGA)が他のどのグリップより広背筋の活性化が高いことを示しています(PMID:12423182)。広背筋への集中した刺激を求めるならワイドグリップ前引きが基本選択です。
WEIGHTラットプルダウン何キロで懸垂ができる?——換算できない理由と体重比の目安
先に結論を書くと、「ラットプルダウン◯kgが引ければ懸垂◯回」という変換式はありません。目安として語られている数字はありますが、根拠のある換算表は存在しません。
なぜ換算できないのか。Doma ら(Sports Biomech, 2013)は両種目を筋電図と3次元の動作解析で比較し、懸垂では肩と第7頸椎(首の付け根)の動く範囲が大きく、脊柱起立筋の活動も高いことを示しました。座って太ももを固定するラットプルダウンでは、体はほとんど動きません。つまり同じ重量を扱っていても、体がしていることが違います。重量だけを揃えても、同じ動作にはならないということです。
もうひとつ、重量の意味も違います。懸垂は自分の体重そのものを挙げる種目です。体重70kgの方の懸垂1回は、70kgに近い負荷を1回挙げていることになります。一方ラットプルダウンは、シートに座って下半身を固定した状態で「引く」種目です。ラットプルダウンで70kgを引けても懸垂が1回もできない、ということは普通に起こります。
そして、そこから先は計算ではなく実際にぶら下がって確かめるほうが早いです。アシストマシンなら補助重量を段階的に減らしていく、マシンがなければ台に乗って上がった姿勢から何秒こらえられるかを測る。この2つのほうが、換算表よりも正確に今の位置が分かります。
STEPS難易度の違い:懸垂が1回もできない人がやるべきこと
懸垂は自体重を全て引き上げる必要があるため、初心者・体重が多い方には難易度が高い種目です。以下の4ステップで段階的に取り組んでください。各ステップには「次へ進む判断基準」を明記しています。
自宅でSTEP2を回す
PRドア枠取り付け型 懸垂バー
STEP2とSTEP3は、週に何度もぶら下がれるかどうかで進み方が変わります。ジムに行く日だけだと3〜4週間の想定が倍近くかかることがあります。ドア枠に取り付けるタイプなら、ネガティブ懸垂や「上がった状態で3秒キープ」を毎日少しずつ試せます。
デメリット:取り付けられる枠の幅と強度に制限があり、賃貸では枠を傷めないか事前の確認が必要です。体重が重い方は耐荷重の表示を確認してください。
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CHOOSE目的・悩み別の選び方:あなたにはどちらが向いているか
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無料カウンセリングを予約する →FORM正しいフォームと「自分でミスに気づく」チェック方法
懸垂のフォームとセルフチェック
グリップの種類によって効く部位が変わります。
①スタート:肩甲骨を下げる(デプレッション)動作から始める
②動作中:肘を体側に引いて広背筋主導を維持する
③トップ:顎がバーを越える位置まで引き上げる
④降ろし:2〜3秒かけてコントロールしながら下げる
| こんな症状が出たら | 原因のミス | 修正方法 |
|---|---|---|
| 腕(上腕二頭筋)ばかり疲れる | 肘から先で引いている・手首に力が入りすぎ | 「肘を後ろポケットに入れるイメージ」で引く |
| 肩の上部・僧帽筋が疲れる | 肩甲骨が上がったまま引いている | スタート前に肩を下げる動作(デプレッション)を意識する |
| 左右どちらかだけが疲れる | グリップの左右非対称・体の回旋 | スマホを正面に置いて動画撮影し、バーと肩のラインが水平かを確認 |
| 腰が痛くなる | 反動をつけた腰の反り | ぶら下がるときに体幹を締める(お腹に軽く力を入れる) |
ラットプルダウンのフォームとセルフチェック
①シートパッドを太ももがしっかり固定される高さに調整する
②グリップ幅は肩幅の約1.5倍を目安にする
③引く前に肩甲骨を寄せる準備動作を入れる
④バーを鎖骨に向けて引く(首の後ろに引く「ビハインドネック」は肩関節への負担が大きく推奨しない)
⑤戻す際に2〜3秒かけてゆっくり伸展させる
| こんな症状が出たら | 原因のミス | 修正方法 |
|---|---|---|
| 腕ばかり疲れて背中に効かない | 肘が外に広がり三角筋主導になっている | 脇を締めて「肘を床に向かって落とす」イメージに変える |
| 上体が大きく後傾してしまう | 重量が重すぎる・体幹が弱い | 重量を10〜20%落とし、上体を軽く後傾(15〜20度)に保つ意識を持つ |
| 肩の前面が痛くなる | バーを首の後ろに引いている(ビハインドネック) | 鎖骨の前に引く。ビハインドネックは肩関節への負担が大きいため推奨しない |
| 広背筋の片側だけに効く | グリップ幅が左右で変わっている | バーの中心を確認し、両手の幅を均等に保つ |
PLANレベル別・週のトレーニングプログラム例
以下のセット数とレップ数は、米国スポーツ医学会(ACSM)が示す筋力・筋肥大に向けたレジスタンス運動の指針(主要な筋群を週2〜3回、8〜12回を2〜4セット)を土台に、背中の種目に落とし込んだものです。
初心者(懸垂0〜3回)
| 種目 | セット×レップ | 目的 |
|---|---|---|
| ラットプルダウン(体重の60%) | 4×12回 | 広背筋の基礎筋力 |
| アシスト懸垂またはネガティブ懸垂 | 3×5回 | 懸垂動作の習得 |
| シーテッドロウ | 3×12回 | 背中の厚みづくり |
アシストマシンがない環境で
PRトレーニングチューブ(アシスト用)
アシスト懸垂マシンは置いていないジムも多く、自宅なら当然ありません。バーに掛けたチューブに足を乗せれば、補助の強さを太さで段階的に変えられます。同じ本数で回数が伸びてきたら細いものに替える、という進め方ができます。
デメリット:補助の強さが伸び具合で変わるため、マシンのように「何kg補助」と数値化はできません。劣化するので定期的な交換が必要です。
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中級者(懸垂5〜10回)
| 種目 | セット×レップ | 目的 |
|---|---|---|
| 懸垂(順手ワイド) | 4×5〜8回 | 広背筋上部・外側の発達 |
| ラットプルダウン(逆手ナロー) | 3×10〜12回 | 広背筋下部・大円筋 |
| ベントオーバーロウ | 3×10回 | 背中全体の厚み |
上級者(懸垂10回以上)
| 種目 | セット×レップ | 目的 |
|---|---|---|
| 加重懸垂(+5〜10kg) | 4×6〜8回 | 高強度刺激による筋肥大 |
| ワイドグリップラットプルダウン | 3×10回 | 広背筋外側の拡張 |
| Vバーラットプルダウン | 3×12回 | 広背筋下部・収縮ポジション |
自重で足りなくなったら
PRディッピングベルト(加重用)
懸垂が10回を超えると、自重のままでは筋力向上より持久力寄りの刺激になります。この記事の上級者メニューにある「加重懸垂 +5〜10kg」を実行するには、プレートやダンベルを吊るすベルトが要ります。腰で支えるので、手で挟んだり足に挟んだりするより安定します。
デメリット:懸垂が10回に届かない段階では出番がありません。チェーンの長さによっては、低いバーだとプレートが床に当たります。
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よくある質問
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まとめ
どちらが優れているかではなく、自分のレベルと目的に合わせて使い分けることが最も重要です。
- 広背筋の活性化に両種目で有意差はない。差が出るのは体幹(脊柱起立筋・腹直筋)と肩・首の動く範囲(Doma et al., 2013)
- 「ラットプルダウン◯kg=懸垂◯回」の換算式は存在しない——動作そのものが異なるため、体重比とレップ数で判断する
- ラットプルダウンではワイドグリップ前引きが最も広背筋を活性化する(Signorile et al., J Strength Cond Res, 2002)
- 懸垂ができない場合は4ステップで段階的に取り組む——各ステップの「次へ進む基準」を確認してから進む
- 姿勢改善・逆三角形・肩こり改善など目的によって使い分けが変わる——目的別の推奨を参考にする
- フォームのミスは「腕ばかり疲れる」「肩が痛い」という症状から原因を逆引きして修正する
- 中級者以上は懸垂とラットプルダウンを組み合わせることで背中の幅と厚みをバランスよく発達させられる
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参考文献・科学的根拠
- 1Doma K, Deakin GB, Ness KF. “Kinematic and electromyographic comparisons between chin-ups and lat-pull down exercises.” Sports Biomech. 2013;12(3):302-313. doi:10.1080/14763141.2012.760204. ジェームズクック大学(豪州)。懸垂とラットプルダウンを筋電図・3次元動作解析で比較した研究。挙げる局面では上腕二頭筋・脊柱起立筋、肩と第7頸椎の可動域が懸垂で高く、下ろす局面では腹直筋がラットプルダウンで高いことを示した。広背筋そのものには両種目間で有意差がなく、「懸垂のほうがより機能的な種目と思われる」と結論している。本記事の主要な比較根拠として参照。 PMID:23833846
- 2Signorile JF, Zink AJ, Szwed SP. “A comparative electromyographical investigation of muscle utilization patterns using various hand positions during the lat pull-down.” J Strength Cond Res. 2002;16(4):539-546. マイアミ大学。10名の健常男性を対象にラットプルダウンの4種類のグリップ(クローズ・スピネイテッド・ワイド前・ワイド後)のEMGを比較。ワイドグリップ前引き(WGA)が他のどのグリップより広背筋の活性化が高いことを示した。グリップ幅と効く部位の違いの根拠として参照。 PMID:12423182
- 3Hewit JK, Jaffe DA, Crowder T. “A Comparison of Muscle Activation during the Pull-up and Three Alternative Pulling Exercises.” J Phy Fit Treatment & Sports. 2018;5(4):555669. doi:10.19080/JPFMTS.2018.05.555669. 米国陸軍士官学校。41名を対象に懸垂・シーテッドラットプルダウン・ニーリングラットプルダウン・アシスト懸垂のEMGを比較。広背筋・上腕二頭筋・僧帽筋の活性化パターンはほぼ同等で、懸垂では体幹(腹直筋)の活性化が高いと報告している。Doma らとは体幹の測定局面が異なり、結果が分かれる点の補足として参照。 doi:10.19080/JPFMTS.2018.05.555669
- 4American College of Sports Medicine. ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription. 11th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer; 2022. 週2〜3回・非連続日での背中トレーニングの推奨・漸進的過負荷の原則の根拠として参照。
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