「年を取ると代謝が落ちる」とよく言われますが、なぜでしょうか?
特に40代以降、同じ食事量でも体重が増えやすくなったと感じる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、中高年における代謝低下のメカニズムを科学的根拠に基づいて解説し、効果的な対策法についても紹介します。
目次
中高年の代謝低下とは?
加齢に伴う代謝低下は、40歳前後から徐々に進行します。
日本人の基礎代謝基準値によれば、体重70kgの男性の場合、20歳代で1日約1680kcalだった基礎代謝量が、50歳代では約1505kcalとなり、約175kcalの差が生じます。
この差は、毎日小さなおにぎり1個分に相当します。
厚生労働省の調査によれば、総エネルギー消費量は20代をピークに、加齢とともに徐々に減少していきます。
この低下傾向は、基礎代謝の低下と身体活動量の減少の両方に起因しています。
基礎代謝が低下する主な要因
基礎代謝が低下する主な要因としては、以下の3つが挙げられます
1) 筋肉量(除脂肪量)の減少
筋肉はエネルギー消費が活発な組織です。
加齢に伴い筋肉量が減少することで、自然と基礎代謝も低下します。
2) 各臓器の代謝率低下
加齢により肝臓や腎臓などの内臓器官の活動効率が低下し、それぞれの臓器における単位当たりのエネルギー消費量が減少します。
3) 身体活動量の減少
若い頃と比較して日常の身体活動量が減少することで、総エネルギー消費量が低下します。
筋肉量減少と代謝の関係
人間の体の臓器・組織ごとの代謝率は大きく異なります。
厚生労働省のデータによれば、肝臓や脳などの臓器は代謝率が高い一方、脂肪組織の代謝率は低くなっています。
筋肉の代謝率は脂肪組織より高いため、筋肉量が減少すると基礎代謝が低下します。
サルコペニア(加齢性筋減弱症)は、加齢に伴う筋肉量と筋力の低下を特徴とする状態です。
研究によれば筋肉量は30歳代から年間約1%ずつ減少するとされています。
この減少は、筋幹細胞の機能低下や筋再生能力の低下が要因となっています。
近年の研究では、筋幹細胞が分泌するHGF(肝細胞増殖因子)がニトロ化により生理活性を失うことが、加齢に伴うサルコペニアの原因のひとつであることが明らかになっています。
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※1視床下部の変化が引き起こす代謝異常
名古屋大学の研究グループは、加齢性肥満(中年太り)の原因となる脳内メカニズムを世界に先駆けて発見しました。
彼らの研究によると、代謝や摂食を調節する脳の視床下部のニューロン(神経細胞)に着目し、抗肥満機能を持つメラノコルチン4型受容体(MC4R)の細胞内局在が、加齢に伴って変化することを明らかにしました。
MC4Rは視床下部ニューロンの一次繊毛というアンテナ構造に局在していますが、この一次繊毛が加齢に伴い退縮することがラットでの実験で確認されました。
この退縮は過栄養状態で促進され、摂餌量を制限すると抑制されることも判明しています。
MC4R局在一次繊毛が退縮すると、飽食シグナル分子であるメラノコルチンへの感度が低下し、代謝量と脂肪燃焼量が減る一方で食欲が増加します。
結果として、体重と体脂肪率の増加を招きます。
ホルモンバランスの変化
中高年になると、様々なホルモンバランスの変化も代謝に影響します。
男性の場合
テストステロンの分泌が徐々に減少し、筋肉量の維持が難しくなります。また、成長ホルモンの分泌も低下し、脂肪の蓄積と筋肉量の減少を促進します。
女性の場合
閉経によるエストロゲンの急激な低下が、脂肪の蓄積パターンを変化させ、皮下脂肪から内臓脂肪への蓄積が増加します。この内臓脂肪の増加は、インスリン抵抗性や脂質異常症のリスクを高めます。
代謝低下を防ぐ効果的な対策
1) 筋肉量の維持・増加
週に2-3回のレジスタンストレーニングを取り入れることで、筋肉量の減少を遅らせることができます。
特に大きな筋肉群(胸、背中、脚)を鍛えることが効果的です。
2) タンパク質摂取の適正化
筋肉の材料となるタンパク質を1日体重1kgあたり1.2-1.6g摂取することで、筋肉量の維持に貢献します。
3) 活動量の維持・増加
日常生活での歩数を増やすなど、身体活動量を維持することで総エネルギー消費量の低下を抑制できます。
4) 適切なカロリー調整
加齢に伴い基礎代謝が低下することを考慮し、摂取カロリーを適切に調整することが重要です。
5) 食事のタイミングと質の改善
食事の質を高め、早朝や就寝直前の食事を避けることで、代謝効率を高めることができます。
6) 十分な睡眠の確保
質の高い睡眠は、ホルモンバランスの維持と代謝の正常化に貢献します。
まとめ
中高年における代謝低下は、単なる年齢の問題ではなく、筋肉量の減少、視床下部の変化、ホルモンバランスの変化など、複数の要因が複雑に絡み合った結果です。
特に興味深いのは、名古屋大学の研究によって明らかになった、脳の視床下部における一次繊毛の退縮が代謝低下と食欲増加を引き起こすメカニズムです。
加齢による代謝低下は避けられない面もありますが、適切な運動習慣や食生活の改善によって、その進行を遅らせることは可能です。
特に、摂餌制限によって一度退縮した一次繊毛が再生することが実験的に示されていることから、適切な食事管理が代謝低下の予防に重要であることがわかります。
若い頃と同じ食事をしていても太るのは、基礎代謝の低下と身体活動量の減少が主な原因です。
この事実を理解し、自分のライフスタイルに合った対策を取り入れることで、健康的な体重管理と活力ある生活を維持することができるでしょう。
※1を詳しく解説
脳の中の「食欲と代謝のセンサー」について
私たちの脳には、体重や食欲を調整する「視床下部(ししょうかぶ)」という部分があります。
この視床下部には、MC4Rというタンパク質が存在しています。
MC4Rとは?
MC4Rは「メラノコルチン4型受容体」という長い名前のタンパク質で、「抗肥満機能」を持っています。
つまり、このタンパク質が正常に働いていると
- 代謝(脂肪を燃やすスピード)を上げる
- 食欲を抑える
効果があり、太りにくい体づくりをサポートしてくれます。
一次繊毛とアンテナの関係
研究チームの発見で面白いのは、このMC4Rが「一次繊毛」という小さなアンテナのような構造に集まっていることがわかったことです。
一次繊毛とは?
神経細胞から伸びている小さな「アンテナ」のような突起で、このアンテナが体の中のさまざまな信号を受信します。
年をとるとアンテナが縮む
研究によると、ラットの実験で、年をとるにつれてこの「一次繊毛(アンテナ)」が短くなっていくことがわかりました。
- 若いラット → 長いアンテナ(良く信号を受け取れる)
- 高齢のラット → 短いアンテナ(信号を受け取りにくい)
このアンテナが縮むと、MC4Rの数が減り、「満腹だよ」という信号を脳が受け取りにくくなります。
アンテナが縮むと何が起こるのか?
一次繊毛(アンテナ)が縮むと、以下の変化が起こります
- 「満腹」の信号を受け取りにくくなる → 食べ過ぎてしまう
- 代謝(脂肪を燃やす力)が低下する → カロリーを消費しにくくなる
- その結果、太りやすくなる
つまり、「同じ量を食べているのに太りやすくなった」という中高年によくある現象の原因の一つがここにあるのです。
食べ過ぎると悪循環になる
さらに興味深いことに、研究では「高脂肪食」を食べさせたラットでは、このアンテナの縮みが早く進むことも判明しました。
- 食べ過ぎる → アンテナがより速く縮む
- アンテナが縮む → さらに食べ過ぎる
- 悪循環に陥る
という悪循環が起きやすくなります。
食事制限の効果
しかし、研究ではもう一つ重要な発見がありました。食事制限をしたラットでは
- アンテナの縮みが抑えられた
- すでに縮んでしまったアンテナが再び成長した
これは、適切な食事管理が、すでに代謝が落ちてしまった中高年の方にも効果がある可能性を示しています。
【参考文献】
- Mechanisms of changes in basal metabolism during ageing. C J Henry. Eur J Clin Nutr. 2000 Jun. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11041079/
- Metabolic changes in aging humans: current evidence and therapeutic strategies. Allyson K Palmer et al. J Clin Invest. 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35968789/
- 加齢とエネルギー代謝 | e-ヘルスネット(厚生労働省). https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-07-002.html
- 中年太りの仕組みを解明. 名古屋大学. https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Cel_240307.pdf
- サルコペニアのメカニズムを解明? | 公益財団法人 東京都医学総合研究所. https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info192.html
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