目次
ガットトレーニング(腸トレーニング)とは
レース中の糖質吸収力を高める腸の鍛え方
マラソンやトライアスロンといった持久系スポーツに取り組む方の間で、「ガットトレーニング(腸トレーニング)」という言葉が少しずつ知られるようになってきました。特に大会での自己ベスト更新を目指す市民ランナーの方や、30代〜60代でトライアスロン・ロングライドに挑戦されている方から、「レース終盤になるとお腹が痛くなる」「補給食を摂ると気持ち悪くなる」といったご相談を受けることが増えています。この記事では、レース中の糖質吸収力を高めるためのガットトレーニングについて、初めて聞く方にも分かりやすく解説します。
なお「ガットトレーニング」という言葉には、紛らわしい類似語がいくつかあります。股関節まわりの筋肉である腸腰筋を鍛える「腸腰筋トレーニング」とは全く別のトレーニングです。またテニスやバドミントンのラケットに張る「ガット(ストリング)」とも関係がありません。腸内フローラを整えたり、腸壁の炎症(リーキーガット症候群)を防いだりする、いわゆる「腸活」とも目的が異なります。ガットトレーニングは、あくまで運動中の消化管の働きを鍛え、レース中に多くの糖質を吸収できるようにするためのトレーニングだと理解しておいてください。
- 定義:運動中に摂取する炭水化物の量を段階的に増やし、腸の糖質吸収能力とトラブル耐性を高めるトレーニング
- 似て非なるもの:股関節の筋肉を鍛える「腸腰筋トレーニング」、腸内フローラを整える「腸活」とは目的が異なる
- 進め方:レースの5〜10週間前から週1〜2回、練習で炭水化物摂取量を少しずつ増やす
- 目安:体重60kgで1時間あたり約42g、体重70kgで約49gが出発点の一つ
SEC01 DEFINITIONガットトレーニングとは?—3つの紛らわしい言葉と区別する
ガットトレーニングの定義
ガットトレーニングとは、運動中や運動前後に炭水化物の摂取量を段階的に増やし、腸の耐性や処理能力を高めることで、より多くの炭水化物を消化吸収できるように体を慣らしていくトレーニングです。腸を鍛えることで、胃の内容物が送り出されるスピードの改善や満腹感の軽減、多量摂取への耐性向上、吸収速度の向上などが期待できるとされています。
腸腰筋トレーニングとの違い
腸腰筋トレーニングは、股関節を曲げる働きを持つ筋肉(腸腰筋)を鍛える、いわゆる筋力トレーニングの一種で、ランニングフォームの改善や腰痛予防を目的に行われます。名前が似ているためインターネット検索でも混同されやすいのですが、対象も目的も全く異なるトレーニングです。ガットトレーニングは筋肉ではなく消化管の働きを対象としています。
ラケットの「ガット」・リーキーガットとの違い
ラケット競技の「ガット」はストリング(弦)を指す言葉で、スポーツ用品としての「ガット」とは全く別物です。また、腸内フローラを整えたり腸壁の炎症を防いだりする「腸活」や「リーキーガット症候群」対策も、日常的な体調管理を目的とするものであり、レース中の糖質吸収力向上を目的とするガットトレーニングとは目的が異なります。日常の腸内環境を整えたい方は、当サイトの腸内環境を整えると痩せやすくなる科学的理由やグルテンフリーで腸内環境を整える方法もあわせてご覧ください。
SEC02 WHY NOWなぜ今注目されているのか
サブ2を支えた高糖質戦略
ガットトレーニングが注目されるきっかけの一つは、マラソンで人類初のサブ2(2時間切り)を達成した選手が、レース中に1時間あたり100gを超える炭水化物を摂取していたという事実です。炭水化物はランニングにおける主要なエネルギー源であり、レース中の摂取量が完走タイムと関係することを示す研究も存在します。
1時間あたり摂取量
マラソンランナーの割合
1時間あたりの上限目安
推奨トレーニング期間
国内でも広がる「補給の見直し」
国内でも、大会での記録更新を目指す市民ランナーやコーチの間でこの考え方が徐々に広まってきています。従来「補給は1時間にジェル一つ」といった、根拠があいまいな補給戦略が広く実践されてきましたが、こうした慣習的な補給量では、そもそも運動に必要な糖質量に届いていないケースが少なくありません。ガットトレーニングは、こうした補給量の見直しと、それに体を慣らしていくプロセスを合わせて指す言葉として使われています。
SEC03 MECHANISMレース中に胃腸トラブルが起きる仕組み
糖質の吸収限界と水分移動
腸が一度に吸収できる糖質の量には限界があります。摂取量がその限界を超えると、消化しきれなかった糖質が小腸内に留まり、周囲から水分を引き寄せることで、腹痛やお腹の張りといった症状につながることがあります。
運動強度と消化管への血流
運動強度が上がるほど消化管へ送られる血流の配分が減るため、運動中は安静時に比べて胃腸の働きが低下しやすいことも分かっています。高強度の持久運動を行う選手を対象に、高糖質の食事とガットトレーニングを組み合わせた場合の消化管への影響を調べた研究もあり、個人差はあるものの、練習を重ねることでこうした症状を軽減できる可能性が示されています。
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食物繊維とFODMAPを控える
食物繊維は胃から腸への食べ物の移動を遅らせるため、レース前後は摂取量を通常より控えめにすると胃腸の負担を減らせます。あわせて、発酵性の糖質を多く含み小腸で吸収されにくい食品(いわゆる高FODMAP食品)も、レースの1〜3日前から控えめにしておくと安心です。ここで大切なのは、これは日常的な腸内環境そのものを整える「腸活」とは目的が異なるという点です。あくまでレース前後の一時的な消化管コンディション調整であり、日常の腸内フローラ改善を目指すものではありません。
水分補給を見直す
糖質を補給する際に水分が不足していると、小腸内の糖質濃度が高くなり、かえって胃腸トラブルを招きやすくなります。運動中の水分補給の考え方については筋トレ・運動時の正しい水分補給ガイドでも詳しく解説しています。
極端な糖質制限ダイエットを避ける
日常的に低炭水化物ダイエットやケトジェニックダイエットを実践している方は、競技中の糖質吸収能力そのものが低下している可能性があるため、大会前は無理な糖質制限を控えることをおすすめします。
SEC05 HOW TO具体的なやり方:数値で見る段階的トレーニング
基本となる摂取量の目安
日々の練習から糖質摂取量を高めに保つこと自体が、腸が糖質を利用する能力を高める適応につながることが、持久系競技の選手を対象にした研究で示されています。これは筋力トレーニングで筋肉に負荷をかけて鍛えるのと同じように、腸にも段階的な負荷をかけることで慣れていく、という考え方です。摂取量の目安としては、アメリカスポーツ医学会(ACSM)が、1時間を超える運動では体重1kgあたり0.7g、または1時間あたり30〜60gの炭水化物摂取を推奨しています。
| 体重 | 1時間あたりの目安(体重×0.7g) |
|---|---|
| 50kg | 約35g |
| 60kg | 約42g |
| 70kg | 約49g |
| 80kg | 約56g |
それにもかかわらず、2012年に行われた持久系スポーツ選手を対象とした調査では、マラソンランナーの73%が1時間あたり35g程度しか炭水化物を摂取できておらず、推奨量に届いていなかったことが報告されています。
研究データに見る上限の目安
さらに踏み込んだ研究では、高糖質の食事とガットトレーニングを組み合わせることで、1時間あたり90gの炭水化物摂取を目指す取り組みも報告されています。また、より新しい研究では、グルコースとフルクトースを組み合わせた飲料を用いることで、1時間あたり120gという高い摂取量でも糖質の酸化(エネルギーとしての利用)が高まり、ランニングエコノミーが改善したという結果も出ています。ただし同じ研究では、摂取量が多いほど吐き気やお腹の張りといった症状も出やすくなったと報告されており、対象もエリート選手であるため、一般のランナーがいきなり同じ量を目指す必要はありません。
市民ランナー向けの段階的な進め方
| ステップ | 1時間あたりの糖質量 | 目安タイミング |
|---|---|---|
| STEP 1 | 30g程度 | まず体調に問題がないか確認 |
| STEP 2 | 45g | 数回の練習を経て増量 |
| STEP 3 | 60g | レース強度に近い長めの練習で |
一般の市民ランナーの方には、次のような進め方をおすすめします。まず普段の練習で1時間あたりの糖質摂取量を記録するところから始めます。体調に問題がなければ、30g程度からスタートし、次の練習では45g、その次では60gというように、数回の練習をかけて少しずつ増やしていきます。目安として、ターゲットとするレースの5〜10週間ほど前から、週に1〜2回のペースで、レース強度に近い長めの練習の中で取り組むとよいでしょう。増量のペースに決まりはありませんが、体調に異変を感じた場合は前の量に戻し、無理に進めないことが大切です。
糖質摂取量を練習期・レース期に応じて意図的に増減させる「カーボサイクリング」という考え方も、摂取量を調整する際の参考になります。詳しくはカーボサイクリング(カーボサイクル)のやり方と食事例で解説しています。また、ガットトレーニングと並行して持久系のパフォーマンスを支える筋肉そのものを鍛えたい方は、筋肉の質が変わる!速筋を持久筋に変える科学的トレーニング法もあわせてご覧ください。
SEC06 FUELING練習で使いたい糖質補給の選び方
デュアルソース(マルチトランスポーター)の考え方
ブドウ糖(グルコース)だけを大量に摂取すると、腸の中で一つの吸収経路(SGLT1という輸送体)だけを使おうとするため、吸収が追いつかず糖質が腸内に残ってしまうことがあります。そこで、ブドウ糖に果糖(フルクトース)を組み合わせることで、SGLT1とは別の経路(GLUT5という輸送体)も同時に使って糖質を吸収できるようになり、一度に多くの糖質を吸収しやすくなると考えられています。
おすすめの補給アイテム
こうした「デュアルソース」タイプの製品としては、Science in Sport(サイエンスインスポーツ)のベータフューエル デュアルソースジェル(1袋あたり炭水化物40g配合)のように、ブドウ糖と果糖を組み合わせて作られたエナジージェルがあります。まずは練習の中で少量から試し、体に合うかを確認しながら取り入れるとよいでしょう。あわせて、電解質の補給も忘れずに行うことをおすすめします。
【デメリット】 高濃度の糖質を一度に摂取するため、体が慣れていない状態でレース本番に初めて使うと胃腸症状が出ることがあります。必ず練習で少量から試し、体に合うか確認してから本番に取り入れてください。
【デメリット】 電解質タブレットのみでは糖質補給にはならないため、エナジージェルなど糖質源と組み合わせて使う必要があります。
いずれも、まずは1個から練習で試し、体質に合うことを確認した上でレースに向けて調整していくことをおすすめします。
SEC07 RACE DAYレース当日に向けた最終確認
レース当日に向けた練習量やコンディションの調整については、ピーキングとは?試合・大会で最高のパフォーマンスを発揮するための科学的調整法でテーパリングの考え方を詳しく解説しています。ガットトレーニングの仕上げも、このピーキング期間に合わせて微調整するとよいでしょう。
レース当日に使う予定の補給食は、必ず事前の練習で試しておくことが大切です。特に、レース本番で初めて使う補給食品は、体に合わずトラブルの原因になることがあります。練習の段階で、どのタイミングでどの補給食を摂ると調子がよいかを確認し、問題なく消化でき、パフォーマンスの向上を感じられるものを本番に持ち込むようにしましょう。長い距離のレースであれば、序盤・中盤・終盤でそれぞれ異なる補給食を試しておくと、当日の選択肢が広がります。
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よくある質問(FAQ)
まとめガットトレーニングは腸を段階的に慣らすトレーニング
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参考文献・科学的根拠
- 1Cox GR, et al. “Daily training with high carbohydrate availability increases exogenous carbohydrate oxidation during endurance cycling.” J Appl Physiol. 2010. 日常的に高炭水化物摂取で練習することが運動中の外因性糖質酸化を高めることを示した研究。 PubMedで確認 →
- 2King AJ, et al. “Short-Term Very High Carbohydrate Diet and Gut-Training Have Minor Effects on Gastrointestinal Status and Performance in Highly Trained Endurance Athletes.” Nutrients. 2022. 高糖質食とガットトレーニングの組み合わせが消化管症状・パフォーマンスに与える影響を検証した研究。 PubMedで確認 →
- 3Ravikanti S, et al. “13C-labelled glucose-fructose show greater exogenous and whole-body CHO oxidation and lower O2 cost of running at 120 versus 60 and 90 g·h-1 in elite male marathoners.” J Appl Physiol. 2025. グルコース・フルクトース併用摂取が高摂取量でも糖質酸化を高めることを示した研究。 PubMedで確認 →


